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浦和地方裁判所 昭和58年(ワ)1268号 判決 1984年11月26日

原告

鎌形敦規

被告

穂坂邦夫

右訴訟代理人

嶋田喜久雄

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(双方の申立)

一  原告

被告は原告に対し金八〇〇万円及びうち金五〇〇万円に対し昭和五四年九月一日から、うち金三〇〇万円に対し昭和五三年一〇月一日から、それぞれ完済まで年五分の割合による金員を支払え。

仮執行宣言。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

(請求の原因)

一  訴外池長商事株式会社は被告に対し取締役の第三者に対する責任を追及して金三〇〇万円の損害賠償を請求していたところ、昭和五三年六月二二日当事者間に次の内容の和解が成立した。

被告は右訴外会社に対し金三〇〇万円の債務のあることを認め、昭和五三年九月末日限り右訴外会社に持参又は送金して支払うこと、遅滞の場合は遅滞の日から完済まで年五分の割合による損害金を付加して支払うこと。

二  同じく右訴外会社は被告に対し不法行為に基づく損害賠償として金六〇〇万円の支払を求めていたところ昭和五三年一二月一五日次の内容の和解が成立した。

被告は右訴外会社に対し金五〇〇万円の支払義務のあることを認め、これを昭和五四年八月末日限り右訴外会社に持参して支払うこと。

三  ところが、被告は右各支払期日に支払を怠つた。

四  ところで、右訴外会社は昭和五七年六月二五日本件和解金請求債権二個を訴外有限会社新栄産業に、同会社は同年九月三〇日これを原告に譲渡し、いずれもその都度その旨被告に通知した。

五  原告は被告に対して右譲り受けた各和解金の支払を求めたが支払わないので、右各和解金及び遅延損害金の支払を求める。

(被告の答弁と主張)

原告の主張する訴外池長商事株式会社と被告との間の和解はすべて裁判上の和解であり、和解調書が存する。また、右訴外会社が訴外有限会社新栄産業に譲渡した債権及び同会社が原告に譲渡した債権は、いずれも前記裁判上の和解にもとづく債権である。

裁判上の和解には確定判決と同様の効果があり、同一事件のむし返しを禁ずる一事不再理の理念よりして本件訴えは却下を免れない。

(被告の主張に対する原告の反論)

一 被告主張の裁判上の和解は、訴外池長商事株式会社と被告間に右各和解債権につき強制執行等の申立はせず被告の任意の履行にゆだねる旨の新和解が成立したことによつて消滅した。

二 原告は右新和解を本訴の請求の原因としている。右新和解は和解調書は執行せず、したがつて和解調書記載の弁済期日にこだわらないとの合意であつたと解され、右合意成立から適当な時間を経過しても被告の任意支払の動向が見られない以上和解調書に改めて執行力の付与を求めるのは当然とする了解が右合意の中に内包されていたと解するのが自然であるから、本訴請求は訴求の利益がある。

(証拠)<省略>

理由

<証拠>によれば、原告主張のとおりの各和解調書(裁判上の和解)が訴外池長商事株式会社と被告との間に存在し、右和解調書にもとづく各債権が原告主張のとおりの経緯で原告に譲渡され、本訴は原告が右各債権により被告に対してその支払いを請求するものと認められる。

ところで、債務名義となる和解調書にもとづく債権の譲受人は、承継執行文の付与を受けることにより直ちに執行することができるから、別に給付の訴えを起す利益はない。

原告は、本訴は和解調書の債権を主張するものではないなどと前記のとおり苦しい弁解をするが、本訴が和解調書の債権の請求であることは弁論の全趣旨から明らかであつて、本件訴えの利益を首肯させるものではない。

よつて、本件訴えは訴えの利益がなく、この点において不適法であるから、その余の判断をするまでもなくこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。 (下村幸雄)

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